ぷろまねさん

グローバルコンサルティング会社でシステム開発・運用保守(アプリ方面)のプロジェクトマネジャーをしています。2014年PMP取得。アジャイル開発などの開発手法、Redmineなどの開発ツールを話題の中心に書いてます。

スケジュールのあいまいさへの立ち向かい方:『アート・オブ・プロジェクトマネジメント』を読んで

数週間前になるがScott Berkunの『アート・オブ・プロジェクトマネジメント―マイクロソフトで培われた実践手法』を読んだので書評しておく。

邦副題にもある通り、著者はマイクロソフトでの経験を基にこの400ページ超の分厚いプロジェクトマネジメント本を執筆している。その内容は、PMBOK系の理路整然としたプロジェクトマネジメント本(『世界一わかりやすいプロジェクト・マネジメント』などもその類だと思う)と、アジャイル系の管理手法を折衷した、現実的なものとなっている。

スケジュールとは確率なり

本書の白眉はほぼ最初の第2章「スケジュールの真実」の部分だと思う。ここで著者は「スケジュールとは確率なり」、すなわちスケジュールはある時点で立てられた予測でしかなく、その時点がスケジュールの日付から遠ければ遠いほどそれが正確である確率は低い、といっている。

人間はしばしば、きめ細やかさと正確さを取り違えるという過ちを犯します。特定の日時が書き込まれた(きめ細かい)見た目のよいスケジュールが、現実を正しく(正確さ)反映しているわけではないのです。きめ細かくするのは簡単ですが、精度を上げるのはとても難しいことなのです。

これは単なる予測でしかありません。どれだけ正確に書かれており、どれだけ説得力があったとしても、それは小さな見積もりの寄せ集めにしか過ぎず、それぞれの見積もりにはさまざまな種類の予測できない見落としや問題が含まれているのです。

人間の性として、特定の日付が記載されているとそれは絶対的に真の値であるものとして扱ってしまいがちである。そして一度出した日付や工数の数字は「一人歩き」を始める。だからこそプログラマやエンジニアなどの作業者は具体的な数字を伴う見積を出したがらないものだ。

ただ、この文章で「正確さ」と「精度」が同じ意味で使われていることには注意が必要だ。統計学や品質管理の領域などでは両者は明確に異なる意味を持つ。「正確さ」は本当に正しい値にどれだけ近いかという概念であり、「精度」は複数の値にどれだけばらつきがないかを表す概念である。この2つの概念は分けて考えるとまた見えてくるものもあるので気をつけたい。手近なところで正確度と精度 - Wikipediaなどを参照。

見積もりに対する自信を定量化する

この確率というあいまいさに対して著者が用意した答えのひとつが「あいまいさを可視化する」ことである。

「この締め切りを実現できる可能性はどのくらいだろうか?」という疑問を持つことが有効でしょう。

正確さという観点で見た場合、例えば、推測であれば40%、優れた見積もりであるという自信があれば70%、詳細かつ綿密な分析であれば90%といった確率になります。

このあいまいさの定量化・可視化というのは実はこの本を読む前から個人的に考えていた、しかしこれまで読んできた本や記事などで言及されたことがほとんどなかった内容だったので、「そう、そうだよ!」と思った反面、先に書かれた、、とちょっと落胆するところだった。とはいえプロジェクトを進める上でのあいまいさのマネジメントはスケジュールだけの話でもなく、まだ十分に議論し尽くされている領域ではないので、今後掘り下げていきたい。

一方、もちろんあいまいさの定量化だけが唯一の対処法ではない。あいまいなものをあいまいなまま受け止める、というのもひとつの手段である。(スケジュールではなく工数についてではあるが)この思い違いに立ち向かうプラクティスとして、アジャイル開発手法にはプランニングポーカーが存在する。工数の単位を実際的な単位(人月)ではなくポイントにして抽象性を持たせ、またその数字の刻みを大まかにすることによって精度は限定的であることを暗示させる。これにより工数見積が不当に正確・高精度なものとして扱われることを防いでいる。

アート?

最後に題名について。何度か言及しているミンツバーグの『マネジャーの実像』ではマネジメントを3つのスタイルに分類している。「慎重で分析的」なサイエンス、「アイディアとビジョンを重視し直感的」なアート、「経験を重視」するクラフトである。

上記の3分類からすると、本書はアートというよりクラフトの強いように思える。 (特にサイエンス的なプロジェクトマネジメント手法であるPMBOKのような管理手法を採った場合に)経験的に陥りがちな失敗をどのように回避するか、に重きを置いている。そのため、『クラフト・オブ・プロジェクトマネジメント』のほうが本書の内容を適切に言い表していると思う。

 

A Guide to the Project Management Body of Knowledge: Official Japanese Translation(プロジェクトマネジメント 知識体系ガイド PMBOKガイド)

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