マネジメント技能に粘着性はあるのか:H.ミンツバーグ『マネジャーの実像』を読んで
読み終わった本が多い(というかそれを書けてなかった)ので、連続で書評。
「マネジャー」(マネージャー、マネージャではなく)の権威と言えばのミンツバーグの本、学生時代に『マネジャーの仕事』、『戦略計画』、『戦略サファリ』以来読んでいなかったのだけど、Kindle版になっていたので久しぶりに読んでみました。
本書は『マネジャーの仕事』のUpdate版という感じ?読んだのがもう10年くらい前なので正直『マネジャーの仕事』に何が書いてあったか覚えていないのだけど、その頃は学生だったので「よく分かんないけど長ったらしいな」という印象しかなかったのが正直なところ。
でもある程度仕事をして、マネジャー的な仕事をした上で読んだ『マネジャーの実像』は、色々と示唆に富んでいて良かった。やはり本の評価は、その内容だけではなく、読み手側の経験を主とした「タイミング」に依拠するところが大きい。
ということで、本書はミンツバーグが20数名のマネジャーに張り付いて(といっても基本的に1日)「マネジャーとはどういう仕事なのか」を改めて体系化している。おぼろげな記憶を辿れば、『マネジャーの仕事』よりも理論だっている、気がする。
私的ミンツバーグの印象
『戦略計画』、『戦略サファリ』でのミンツバーグ戦略論でもそうなのだが、ミンツバーグは悪く言えば「どっちつかず」な印象が強い。
戦略論・管理論の古典的主流である分析的手法、つまり経営管理論で言えば古くはテイラー、戦略論で言えばポーターを中心とするハードな学派と、それに対するアンチテーゼ、リーダシップ論やモチベーション論などソフトな事項を重視する学派のどちらも批判し、「いやどっちも違うしどっちも重要」とまとめている。
良く言えば「実態を徹底して直視する」、「バランスがとれている」人なのだが、結局新しいことは言っておらず、個人的にはそこにカタルシスが感じられないのであまり面白くない、というのが正直なところ。弁証法で言うアウフヘーベンになっているようでなっていない感じ。
マクロマネジメント批判
本書も基本そうなのだが、どちらかと言うと戦略論・管理論の中ではアンチテーゼに位置するリーダシップ論のほうを批判している印象。現在の(特にトップ)マネジャーはマイクロマネジメントよりもマクロマネジメントを重視し、リーダーシップが過剰になっている状態が蔓延しておりよろしくない、という姿勢だ。
あれ、でもマクロマネジメントの根幹にあるのはトップダウン的な、KPIで管理しようとする姿勢であってそれは戦略論・管理論のテーゼのほうか。うーん、よく分からなくなってきた。
マネジメント技能の業界(企業)粘着性
面白かった、そして僕としては異論のあるミンツバーグの主張は、「マネジメントは業界横断的な技能ではなく、各業界・各企業の文脈によって求められるマネジメント技能が存在する」という部分。
そういった業界・企業粘着性があるからマネジャーといえどもどこへ行っても通用するマネジメント技能は存在しないと言っているのだが、果たしてそうだろうか?
実態として見ればそうなのだけど、それはマネジメント技能自体に粘着性がある訳ではなくて、マネジメント技能自体は普遍的なものだけれど、それを各業界・各企業で通用させるためにはそれ以外の知識(≠技能)が必要、というだけに僕には思える。
本書で「軍の指揮官が学校運営を上手くやれるのなら、学校運営者も軍も率いれるのか?(いや、そうではない)」という例えを何度も出しているが、それはマネジメント技能の違いではなく、それぞれで管理を行うための前提知識が必要なだけではないか。
ミンツバーグほど色々な業界を見ていないので絶対的確信はないのだけど、IT業界の中でもSIと運用保守では異なる知識的バックグラウンドが求められるけども、そこで求められるマネジメントのエッセンスは同じだと感じている。また、今のクライアントでは異業種から会長を連れてきているけど、傾きかけていた同社を確実に良い方向に持っていっていると思っている。
ミンツバーグもそこにマネジメントのエッセンスがあるということをほのめかしている気がするのだが、そこに業界・企業粘着性があると明言しているのはどういうことだろうなぁ。
- 作者: ヘンリー・ミンツバーグ,池村千秋
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2011/01/25
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