ぷろまねさん

グローバルコンサルティング会社でシステム開発・運用保守(アプリ方面)のプロジェクトマネジャーをしています。2014年PMP取得。アジャイル開発などの開発手法、Redmineなどの開発ツールを話題の中心に書いてます。

『シンギュラリティは近い』を読んだ人のための『スピリチュアル・マシーン』

今回読んだ本はレイ・カーツワイルの1999年の著書『スピリチュアル・マシーン』。カーツワイルといえば2005年の著書『シンギュラリティは近い』(先に出た紙の本の邦題は『ポスト・ヒューマン誕生』)はもっとも最近邦訳されているもので、かなり話題になったので読んだ方も多いと思う。

僕も『シンギュラリティは近い』を遅ればせながら昨年くらいに読んで、すっかりカーツワイル親派になってしまった。「人間以上の知能を得た機械」、「ナノボットにより姿形をいくらでも変えられる人間」、そして「永遠の命」と、SFでしかお目にかかったことのない「夢のテクノロジ」の数々がクソ真面目に、つまり現実味を持って語られている。

これが唯の物書きが語っているだけであれば信憑性もないだろう(とはいえ、文面だけでも、そこに依拠するデータとロジックの数々が十分な説得力を持っているのだが)。しかし氏の経歴を調べてみるとコンピュータによる作曲やOCR、シンセサイザなど数多くの発明品を生み出し*1、またそれらを世に出すための会社を次々に作っては売っていくという、発明家・事業家の両面を持った人物だということが分かる。

そして氏は2012年末からGoogleでディレクタ職を務めているという。2010年台に、これほど「未来」を期待させる(そして危惧させる)タッグはないだろう。

さて、前置きが長くなってしまったので本題に入ろう。

『シンギュラリティは近い』と同じところ

本書『スピリチュアル・マシーン』を読み始めて、「あ。ほぼ『シンギュラリティは近い』と同じだ」と思った。「ムーアの法則」から「収穫加速の法則」が語られ、21世紀にはこれまでには比較にならないほどのテクノロジの進化が見込まれる、というのが大筋であり、これは『シンギュラリティは近い』でもほぼ同じである。

そういった意味で『シンギュラリティは近い』を読んだ人であれば、本書を(わざわざ絶版本を探してまで*2読む必要はないだろう(笑)

しかし逆に言えば、2005年に書かれ、2013年に僕が読んだ時点でも衝撃的だった内容を、1999年にすでにほとんど言い切っているということだ。そのことを知るというだけでも価値があったと思う。

また、カーツワイルとモーリーによる掛け合い漫才は本書ですでに成立している(笑)このモーリーという名前の由来は何なんだろう?娘の名前とかなのかな、と思ったがちょっと調べても分からず。

『シンギュラリティは近い』と違うところ

『シンギュラリティは近い』で新しく加わった概念は大きく2つかなと思う。1つ目は書名の通り「シンギュラリティ(技術的特異点)」の概念だ。『シンギュラリティは近い』では2045年を目安にシンギュラリティ、すなわち指数関数的に加速するテクノロジ進化の臨界点に到達するとしているが、本書では特にシンギュラリティの点には触れていない。第3部「・・・そして未来」の章も「2009年」、「2019年」、「2029年」の章が来て、次に「2099年」の未来予測をしているところから見ても、2045年周辺に特別な注意を払っていなかったことが分かる。

一方『シンギュラリティは近い』ではそれほど語られておらず、本書で語られている点で面白いのは宇宙の歴史とテクノロジの進化の関連性の部分だろう。

宇宙の歴史を紐解いていくと、宇宙が誕生してすぐの一瞬のうちに重力の発生、物質(電子・クオーク)・反物質の発生が起こり、そこからしばらくして電子・原子が誕生し、だんだんスピードを落として星雲、星の誕生と、宇宙的に大きなパラダイム・シフトの速度はどんどん遅くなっているというのだ。そしてこの数十億年単位で、宇宙的には「大したことは起きていない」のだという。つまり、宇宙的には時間の流れがどんどんゆっくりになっている。

一方、『シンギュラリティは近い』でも語られている通り、地球上の生物、そしてその中でもテクノロジを手にした人間の進化はどんどんスピードアップしている。単細胞生物から多細胞生物、そこから哺乳動物、霊長類への進化、そしてホモ・サピエンスと進化する時間はどんどん短縮しており、その後テクノロジを手にした人間は指数関数的進化を続けている。

宇宙はどんどんスローダウンしているのに、進化はスピードアップし続けている。氏はこれを「カオス」と「秩序」によって説明している。それが以下の「時間とカオスの法則」と「カオス増大の法則」だ。

時間とカオスの法則―あるプロセスにおいて新たに大きな出来事(つまり、そのプロセスの特質を変化させたり、そのプロセスの将来に重要な影響を及ぼすような出来事)が起きるまでの時間の間隔は、カオスの量とともに拡大したり縮小したりする

カオス増大の法則―カオスが指数関数的に増大すると、時間は指数関数的に遅くなる(つまり、新たに大きな出来事が起きるまでの時間間隔は時間の経過とともに長くなる)。

 宇宙は誕生からどんどん大きくなっているわけであるので、カオスは増大し続けている。したがって、カオス増大の法則により時間は遅く、スローダウンしている。そして逆に進化は「収穫加速の法則」によって秩序(=反カオス)の増大によって時間が早く、スピードアップしている。

こうして宇宙と進化の時間について1つの法則(「時間とカオスの法則」)で説明されてしまう。ここまで快感な議論はなかなかお目にかかれないだろう。

カーツワイル、つくづく痛快な人物だ。是非お目にかかりたい。いや、きっといつかお目にかかれるだろう、なぜならもうすぐ我々は永遠の命を得られるのだから。

スピリチュアル・マシーン―コンピュータに魂が宿るとき

スピリチュアル・マシーン―コンピュータに魂が宿るとき

 

 

*1:日本だと「発明家」というとドクター中松や、テレビにたまに出る変わり者おじさんのイメージが強い。これは日本から革新性を持った製品を送り出す妨げになっているんじゃないだろうか。

*2:しかし、Amazonマーケットプレイスで絶版本でも2日程度で非常に手軽に手に入れられるようになった。もちろん電子書籍であれば配送TATさえ気にしなくて済む。僕が新入社員だった7年前くらいにはまだまったく形もなかったようなサービスが現在当たり前になっている。これこそが氏の説に信憑性を持たせている最大のだと感じる。