見積りは慎重に:『人月の神話』を読んで
こないだ『人月の神話(新装版)』読み終わったので、忘れないうちに所感を。
といってもこの4月の新装版ではなく、2002年の赤い熊のほう。ずいぶん前に買って半分読んで放置していたので。。。
9倍の労力
最初に強調すべきは「システムを製品としてパッケージングするには単にプログラムを組むよりも9倍の労力を要する」というところ。これは多くの見積経験者が実感するところだろう。
これは単に「思ってるよりかかるんですよ」と見積に納得いかない顧客をなだめすかすときにも材料としても使える。
それよりも重要なのは実際に見積りを行うとき、レビューするときだろう。他システムとの連携があるか否かで見積は大きく(曰く3倍)左右されるので忘れてはいけないチェックポイントだし、またマニュアル作成等の作業というのも忘れがち。
人月の神話 - 人と月は等価交換ではない
そしてタイトルにもなっているこれ。これも見積りを作成するとき、レビューするときに注意しなければならない点で、「誰がやる想定」の見積りなのかを意識しなければ意味のない数字にしかならない。
本書ではデスマーチ化したときに単純に人員追加してもリカバリにはならないよ、という警鐘を鳴らすているが(ブルックスの法則)、それ以外にも「顧客がGoサインを出すタイミングが悪く想定していたリソースが確保出来なかった」ようなときにも同様の問題が発生する。見積作成・提示者としてはそのリスクも勘案してリーズナブルなバッファを留保するか、そのリスク自体を関係者に周知させておかなければならない。
加えて、「スケジュールと見積は1セットで出す」というプラクティスもここから導き出される。見積だけを顧客に提示してしまえば「じゃあXX人月でいいから半年で終わらせてね」と言われること請け合い。「2年間のプロジェクトの前提でXX人月です、プロジェクトを短縮(または延長)する場合は別途お見積りです。」という伝え方をしておけば良い。
見積りは慎重に、それだけ?
人月の神話に記載されていることは非常に保守的。それはブルックス自身の手痛い実体験に基づいたものであるからそうなんだろうし、それだけの価値がある。
しかし実際に見積りを行う現場では「そうはいっても」ということばかりだろう。予算は限られているから顧客からのプレッシャーは強いし、「本当にこんなにかかるの?」に対しての確たるものを持っていることを稀。それに対して、リスクを共有した上でリーズナブルな妥協点を探る、というところが見積者の力量というところじゃないかな?
人月以外の内容
テーマ性を持たせるために人月の話に終始してみたが、それ以外にも本書で面白い話題は多い。
「外科手術チーム」は普通ではないチーム構成が推奨されているし(中でも、ツール担当者を専任で置く、というのが面白かったな)、ソフトウェア開発の複雑性を理由とした「銀の弾などない」は理解出来たような、出来ていないような。
このあたりはまた再読したときに。
- 作者: Jr Frederick P. Brooks,滝沢徹,牧野祐子,富澤昇
- 出版社/メーカー: 丸善出版
- 発売日: 2014/04/22
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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